ケアマネの退職、私は半年前に伝えました|後任が決まらないまま進んだ引き継ぎの現実【転職連載⑤】

誰も座っていない椅子の座面に、引き継ぎマニュアルが1冊置かれているイラスト 介護・転職・キャリア

転職先は、先に決まっていました。

第3回に書いたとおり、今回の転職は先方からの直接の打診から始まっています。求人を探した期間も、比べて迷った期間もありません。面談で何を確認したかは第4回に書きました。

だから私が長く悩んだのは、転職先選びではありませんでした。

行き先が決まっている状態で、上司にどう切り出すか。

事務所のデスクの向こうに座っている上司を見ながら、「今日こそ言おう」と思っては言えずに帰る。心当たりのある方、いませんか。

こんにちは、ケアマネパパです。介護業界歴約20年、2026年9月に施設ケアマネから居宅ケアマネへ移ったばかりの一児のパパです。

私が退職の意思を伝えたのは、退職日の半年前でした。法律上は2週間前でよく、就業規則でも1〜2ヶ月前という職場が多いなかで、かなり早い申し出です。

そして正直に書きます。本当にしんどかったのは、切り出すことではありませんでした。 半年前に伝えたのに後任がなかなか決まらず、「誰に引き継ぐのか分からないまま引き継ぎ準備をする」という時間が続いたことです。

今回は、その半年間を書きます。

この記事でわかること

  • 法律上の期限(2週間)と、ケアマネの現場感覚のズレ
  • 私が実際に使った、切り出しの第一声
  • 切り出す前に決めておくべき2つのこと
  • 後任が決まらないまま引き継ぎを進めることになったときの考え方
  • そのまま使える、施設ケアマネの引き継ぎマニュアルの項目

法律では「2週間前」。でも私は半年前に伝えました

意外と知られていませんが、期間の定めのない雇用の場合、退職の申し入れから2週間が経過すれば雇用は終了すると民法で定められています(民法第627条第1項)。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(出典: e-Gov法令検索 民法)

日本労働組合総連合会も、退職の意思表示から2週間が経過すれば雇用関係は終了すると説明しています(連合 労働相談Q&A 退職の自由)。多くの職場は就業規則で「1ヶ月前まで」などと定めているので、まずは自分の職場の就業規則を確認してください。 話がこじれて進まない場合は、労働基準監督署や労働相談窓口に相談するという道もあります。

そのうえで、私の本音を書きます。

ケアマネの仕事は、2週間では引き継げません。

法律が守ってくれるのは最低ラインです。私たちが預かっているのは書類ではなく、入所者さんとご家族の生活です。担当が替わるというのは、その方にとって「相談相手が変わる」という、決して小さくない出来事になります。

だから私は半年前に伝えました。理由は3つです。

  • 担当している入所者さんとご家族に、余裕をもって説明したかった
  • 後任の体制を、施設側が考える時間を作りたかった
  • 自分が「引き止められて曖昧になる」のを避けたかった

3つ目は、完全に自分のためです。行き先が決まっているぶん、ぎりぎりで伝えて話が長引くと逃げ場がありません。早く伝えておけば、仮に引き止められても、お互い冷静に着地点を探せます。

第一声は「大事な話があるので、お時間いただけますか」

実際に私が使った言葉です。事務所で、上司に声をかけました。

たったこれだけですが、振り返るとこの一言が良かったと思っています。理由は3つあります。

1. 用件をぼかさないが、内容も言わない

「大事な話」と言えば、相手は姿勢を正してくれます。かといって「退職の件で」とその場で言ってしまうと、立ち話のまま話が始まってしまう。改まった場をつくるための一言でした。

2. 立ち話にしない

「お時間いただけますか」と時間をもらう形にすると、腰を据えて話せます。介護の職場は忙しく、ちゃんと話すつもりが業務の合間に流れてしまうことがあります。時間をもらう、というワンクッションは効きます。

3. 「相談」ではなく「話」にする

ここが地味に大事です。「ご相談が」と言うと、相手は「まだ決まっていないんだな」と受け取ります。すでに決めていることを伝える場なので、相談の形にしない。 私はそう意識しました。

結果として、引き止めは軽く惜しんでもらった程度でした。条件を提示しての強い慰留はありません。半年前という早さと、この切り出し方が、「本気で決めている」と伝わったのだと思います。

切り出す前に決めておいたほうがいいこと2つ

言い出せなかった時期を振り返ると、「これを先に決めていれば、もっと早く言えたな」と思うことが2つあります。

1. 退職日を、自分の中で確定させておく

「そのうち辞めたい」では切り出せません。逆に日付が決まっていると、言葉は自然と出てきます。 「◯月末で退職したいと考えています」と言い切れる状態をつくってから臨むと、会話が「辞めるかどうか」ではなく「どう引き継ぐか」から始まります。

2. 譲れない一点を決めておく

引き止められたときに揺れないよう、「これだけは譲らない」を一つだけ決めておきます。私の場合は、第1回に書いた子どもと過ごせる時間でした。給与を上げてもらったとしても、施設で兼務を続ける限りこれは解決しない。そう整理できていたので、迷いませんでした。

逆に言えば、条件を出されて心が動くなら、辞める理由がまだ固まっていないのかもしれません。その場で答えず、一度持ち帰るのが賢いと思います。

本当の山場は「後任が決まらない」ことでした

ここからが、この記事で一番書きたかったところです。

半年前に伝えました。施設側にも時間はありました。それでも、後任はなかなか決まりませんでした。

ケアマネの有資格者を採用するのは、簡単ではありません。まして施設のケアマネは、第1回に書いたとおり相談員業務や送迎まで含めた兼務が前提のことが多い。求人を出せばすぐ埋まる、という職種ではないのです。

つまり私は、「誰に引き継ぐのか分からないまま、引き継ぎ準備を進める」ことになりました。

これは想像以上にきつかったです。相手がいれば、一緒に回って、顔をつないで、「この方はこういう方で」と口で伝えられます。相手がいないと、それが一切できません。退職日は近づいてくるのに、渡す相手がいない。焦りと、申し訳なさが同時に来ます。

だから私は、マニュアルを残しました

渡す相手が決まっていないなら、口頭では渡せません。文書にするしかない。

消去法で選んだ方法でしたが、いま振り返ると、これが一番正しいやり方だったと思っています。理由は2つあります。

  • 誰が来ても読める。未経験の方が来ても、経験者が来ても、同じものが使える
  • 口で伝えた情報は消えるが、書いたものは残る。後任が決まったあとも参照してもらえる

そしてもう一つ。マニュアルを作る過程で、自分が何を頭の中だけで処理していたかが見えました。 「なんとなく分かっていたこと」を文字にする作業は、正直しんどいです。でもそこにこそ、引き継ぎの本体がありました。

書類で渡せるもの、渡せないもの

施設サービス計画、アセスメント、モニタリングの記録、サービス担当者会議の記録。こうした書類は、ファイルの場所を伝えれば引き継げます。問題は、書類になっていないほうです。

  • ご家族のキーパーソンが誰で、どの時間帯なら電話に出られるか
  • 「この話題を出すと空気が固くなる」という地雷
  • 看護・介護職・リハ・栄養といった施設内の多職種と、これまでどう連携してきたか
  • 入所者さんが本当は何を嫌がっていて、何を楽しみにしているか

これらを書く欄は、記録の様式にありません。でも、ケアマネの仕事の質を決めているのは、たぶんこちら側です。

引き継ぎマニュアルに入れた項目

そのまま使えるように、項目だけ置いておきます。後任が決まっていない前提で作るなら、入所者さんごとの情報だけでなく、業務全体の流れも要ります。

入所者さんごとに書いたこと

  • 現在の施設サービス計画の狙い(なぜこのプランになっているのか)
  • 直近3ヶ月の変化(できなくなったこと・増えた不安)
  • キーパーソンは誰か/連絡が付く時間帯/連絡手段の好み
  • ご家族間の関係で、配慮が必要なこと
  • 多職種からの申し送りで、記録に残していないこと
  • 次の更新・認定調査・担当者会議の時期
  • 申し送り(言葉にしにくいが、伝えておきたいこと)

業務全体について書いたこと

  • 月間・年間の業務の流れ(いつ何が来るか)
  • 書類の保管場所とファイルの並び方
  • 兼務していた業務の段取り(相談員業務、送迎、事務所対応など)
  • 主治医・協力医療機関・保険者・地域包括など、外部の窓口と担当者名
  • 施設内で、誰に何を聞けばいいか

最後の「申し送り」と「誰に何を聞けばいいか」に、一番時間がかかりました。そして一番役に立つのも、たぶんここです。

兼務の段取りを書いたのは、施設ケアマネならではだと思います。 ケアマネ業務のマニュアルだけ置いていっても、実際に後任が困るのは送迎の順番や事務所対応のほうかもしれない。自分が「ケアマネの仕事じゃない」と思っていた業務ほど、誰も教えてくれない、という皮肉があります。

後任が決まらないとき、辞める側ができること

同じ状況の方に、2つだけ。

1つ目。後任が決まらないのは、あなたの責任ではありません。

採用は事業所の仕事です。「自分が辞めるせいで」と抱え込むと、退職日を延ばす方向に引きずられます。線は引いていいと思います。

2つ目。できるのは「誰が来ても回る状態」にしておくことだけです。

相手が見えないなら、相手を想定しない。未経験の人が明日来ても困らない粒度で書く。そう決めてしまうと、やることがはっきりします。

そして——半年前に伝えておいたことが、ここで効きました。もし1ヶ月前に伝えていたら、マニュアルを作る時間などありませんでした。早く伝えることの価値は、引き止めを回避することではなく、こういう時間を確保できることにあります。

居宅ケアマネの退職は、ここが違いそうです

ここは正直に「調べた側」として書きます。私が辞めたのは施設なので、居宅からの退職は経験していません。

ただ、違いは2つありそうだと思っています。

1つは、引き継ぐ相手の数です。 施設は看護・介護職・リハ・栄養と、連携先が施設の中でほぼ完結します。一方で居宅は、利用者さんごとに外部のサービス事業所が付いています。担当者一人ひとりとの関係まで引き継ぎの対象になるということです。今回の私のマニュアルに、その項目はありませんでした。

もう1つは、月のリズムです。 第2回で整理したとおり、居宅ケアマネには給付管理という月次の業務があります。月末月初に実績確認と請求が集中するため、退職日や引き継ぎのタイミングは、この月のリズムを外して考える必要がありそうです。

このあたりは、私自身が居宅で働いてみてから、連載の後半であらためて書きます。

これから辞める人へ

介護業界は、思っているより狭い世界です。事業所を移っても、会議や研修で前の職場の人と再会します。地域が同じなら、なおさらです。

だから「立つ鳥跡を濁さず」は、きれいごとではなく実利だと思っています。丁寧に辞めた人のところには、また声がかかる。実際、今回の私の転職は直接の打診でした。働き方を見てくれていた人がいた、ということです(その話は第3回に書きました)。

そして最後に、切り出せずに悩んでいる方へ。

完璧なタイミングは、たぶん来ません。 退職日だけ先に決めて、あとはこの一言を用意しておけば大丈夫です。

「大事な話があるので、お時間いただけますか」

悩んでいる時間より、伝えたあとの時間のほうが、ずっと前向きです。

次回予告

第6回は、いよいよ【リアルタイム】居宅ケアマネ入職初日〜1週間です。第2回で「調べた話」として書いた居宅の仕事が、実際にはどうだったのか。答え合わせを始めます。

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